【CEDEC 2016レポート】 スマホゲームにおけるゲーム性と物語性の“運用で摩耗しない”基礎設計手法 ~チェインクロニクル3年の運用と開発の事例を交えて~
5分で分かる内容まとめ
登壇者
株式会社セガ・インタラクティブ 松永 純
はじめに
時代はソシャゲからネイティブゲームに変遷してる。 その中で、スマートフォンゲームをとりまいている以下のような風潮が存在する。
- ゲーム性が作り込まれていると面倒
- 物語は添え物
- キャラはお金を生むための商品
これらはある一面で真実である。なぜならスマホゲームは運営が必要であり、作品価値は磨耗してゆくため。
開発時のクオリティを損なわずに運営を続けていくことが大切である。作品として価値のあるものは作りたいから、"ビジネス側面"と"クオリティ価値"の両立させようというのがこの講義のテーマ。
ゲーム性について
ずっと面白いゲーム性を作るには?
ゲーム性あるある
- パラメータのインフレ
- レアリティの追加
- 間違って壊れスキル追加
- 新要素追加で複雑化
- コアデザインと無関係な機能を追加
- 偉い人にゲーム性減らせって言われる
なぜこういう事態が起きるかというと、ユーザーが飽きないために要素を追加し続ける必要があるから。
そこで、設計段階でどれだけ「複雑か」が重要になってくる。
例えばチェンクロの場合、6x3ポイントのマップに見えて実際は自由に移動できる設計になっている。これにより無理のない拡張が可能になる。(スライド画像の引用を参照)
気をつけなければいけないのが、複雑なゲームだけどシンプルに見せること。ユーザーからゲーム性が複雑って言われたら負け。
とにかくパラメータを増やす。
物語
物語あるある
- ストーリーカットされる
- ボリュームダウン
- 乱造されクオリティダウン
ストーリーはカットされがち。
運営リソースとしてのストーリー
運営が行き詰まったときにできる施策は
- キャラの追加
- 運営サイクル、イベントフォーマットを変える
- ゲーム性を拡張するアップデート
これらに対して、ストーリーは無限に拡張可能である。摩耗しないストーリー投下はノーリスクあり、原理上は最強の運営リソース。
ではなぜ使われないか。開発効率が低く、高い価値を生み出すためにものすごいコストがかかるから。
たくさんの人が見る場所に配置
チェンクロの例:スタート地点の⭐︎1キャラのナックルシナリオ
- 価値のあるキャラシナリオが高いのは当然
- 無価値キャラでも面白いクオリティにあげる
序盤に配置することで新規ユーザーが良質なストーリーにより多く触れられる。
シナリオ密度・テイストに緩急をつける
達成感とシナリオクオリティを結びつける
プレイヤーがやってやった!と思ったときに物語があると価値が上がる。
チェンクロの例:キャラを引いた瞬間にドラマを入れる
カードをキャラだと感じる価値的な昇華を行わせるための最も効率が良い仕組み。たった4タップなのに感じ方がまったく違う。
物語の価値をキープするには「すべては効率。」
キャラについて
拡張すると摩耗するもの
- 新キャラがかぶる
- 既存キャラがぶれる
解決策は
- 全てのキャラに唯一無二の特徴を持たせる
- あらかじめキャラ特徴をたくさん出しやすい世界観を作っておく
チェンクロの場合
- 職業や種族など、登場する国ごとに明確な特徴づけ
- 各国で出てくるキャラクターが絶対にカブらない設計
- 各国ごとに細分化した勢力を持たせる
- 拾いやすい組織設定をキャラに割り当てていく(〇〇担当)
あらかじめ量産しやすい世界観にできているか。
総括
3点に共通するのが、「初期設計で合理的に設計されているか」ということ。ゲームはずっと遊べはいずれ飽きるから、運営者はやれることがなくなったら作品性を摩耗させざるを得ない。
優れたゲーム作品は情熱なしで成し遂げられないが、その作品を幸せにするためには論理性・合理性が同時にもとめられる。損なわれないものづくりを成し遂げよう。
感想
パッケージ型の作品と違い、少なからず磨耗していく前提で初期設計をしなければならないことを再認識しました。スマホゲームの場合、ストーリーはリリース時点で終着点がはっきりと決まらないことが多いので、運営をしながら柔軟に変更できる余地を残す、つまり「初期設計で合理的に設計されているか」ということに繋がってきます。
僕自身スマホゲームはゲームとしての側面が薄いように捉えてしまいがちでしたが、情熱と合理性で良い作品は作れるのだという実感が持てました。とてもためになるセッションでした。